・第三者が起こした災害による損害賠償と労災保険の受給が重複するとき、どんな調整が行われるのか
・事業主が起こした災害による損害賠償と労災保険の受給が重複するとき、どんな調整が行われるのか
第三者・事業主が危険なことをして、労働者が危害を被った場合、労働者はその危害を与えた第三者・事業主に対して損害補償を請求できるが、本来は損害賠償に加えて労災保険を受給でき、必要以上にたくさんのお金を受給できてしまう。そこで今回はこうしたことが起きないように、労災保険と損害賠償の間で行われる調整処理について説明していきたい。
第三者行為損害賠償との調整について
調整の方法
・労災保険が先行した場合
労働者に対して労災保険が先に支給された場合、政府は第三者に対する損害賠償請求権を獲得し、第三者に損害補償額を請求する。
・損害賠償が先行した場合
労働者に対して損害賠償が先に支給された場合、政府は損害賠償額分を控除して労災保険の支給を行う。
調整対象となる損害賠償の範囲
損害賠償といっても様々な種類があるが、一体どのような損害賠償の項目が対象となるのだろうか。
これは、労災保険が給付される事由と同じ事由に基づく損害賠償であるときだ。具体的には、下記のようなケースである。
支給調整対象の労災保険 | 損害項目 |
障害(補償)給付、遺族(補償)給付、 傷病(補償)年金、休業(補償)給付 |
逸失利益 |
介護(補償)給付 | 介護損害 |
療養(補償)給付 | 療養費 |
葬祭料(葬祭給付) | 葬祭費用 |
ここで、慰謝料、見舞金、精神的苦痛に対する損害賠償などは、労災保険の支給事由とは関係ないため、支給調整の対象となはらない。つまり、損害賠償+損害賠償分を控除した労災保険+慰謝料+見舞金のような形で被害を被った労働者に支給されるようになる。
示談が行われたときの特例
示談によって放棄された分の支給額が支給されることはなく、その範囲分は労災保険は受けられないことが決められている。
つまり、被害を被った労働者と第三者との間で示談が行われて、第三者が損害賠償を払わないまたは減額となった場合、その分だけ労働者は労災保険を受けないことになる。
ここで、示談が成立するのは、示談が真正に成立していること、示談内容が、損害賠償請求権の全部を補填することを目的としていること以下二つの条件が該当するときである。
損害賠償との調整期間
手続き期間は、求償する場合は災害発生後3年以内、控除する場合は災害発生後7年以内に支給事由の発生した労災保険であることが条件である。
民事損害賠償との調整について
民事損害賠償とは、事業主が起こした災害で損害賠償が生じるケースのことを言う。具体的には下記のようなケースが挙げられる。
1. 安全配慮法違反(民法) |
2. 不法行為(民法) |
3. 使用者責任(民法) |
4. 工作物瑕疵(民法) |
保険給付と損害賠償がともに行われていないケース
・履行猶予
履行猶予とは、もし事業主が事故を起こして、労働者や遺族が障害(補償)年金または遺族(補償)年金の対象者になったとき、企業は一定期間の間において履行を先送りできるという決まりのことだ。
履行猶予の期間は、当該の年金受給権が消滅するまでの間、前払一時金の最高限度額に相当する額(年5分の法定利率を考慮)を限度として猶予される。
・免責
損害賠償の免責とは、年金給付または一時金給付を受けたとき、その支給額分だけ免除されるという決まりのことだ。
免責額は、実際に支給を受けた前払一時金給付の支給額や前払一時金の最高限度額に相当する年金支給額となる。
損害賠償が先行して行われたケース
もし、労働者が損害賠償を先に受けたとき、損害賠償と労災保険の給付がを重複することを避けるために、政府による労働政策審議会が行われ、調整を行うことでその支給額分だけ保険給付をしないことがある。
しかし、以下のケースの給付分は労働政策審議会にかけることなく、政府が例外的に支給することになっている。
1. 前述した履行猶予の対象である障害(補償)年金または遺族(補償)年金の一時金給付または年金給付 |
2. 障害(補償)年金差額一時金、遺族(補償)一時金 |
3. 転給によって受給権を得た受給者に対する労災給付 |
支給調整期間
支給調整期間には期限があるが、年金給付の種類ごとで異なり、以下のようになる。
障害(補償)年金、遺族(補償)年金 | 年金支給期間満了月から9年間 |
傷病(補償)年金 | 支給事由が発生した月の翌月から9年間 |
休業(補償)給付 | 災害発生日から9年間 |
以上、前回にわたって損害賠償と労災保険の調整について取り上げてきた。

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